「まちなみウォッチングin 平出」 に参加して
2018年09月10日
JIA長野県クラブ 正会員建築家 轟 真也さんから、「まちなみウォッチング in 平出」の報告です。(2018年9月1日)
夏の終わりを感じさせる9月1日に、塩尻市の平出集落を勉強する街歩きが行われました。この村に生まれ住み続けている川上恵一氏と景観保存活動をされているお二人にご案内いただき、歴史ある集落の散策にメンバーの所員、家族含め29人が参加して行われました。
本棟造りの特徴ある民家と縄文時代からの遺構が残り、周りを多くの自然に囲まれた平出は、「古代」から「現代」までのこの地の人と生活の歴史が感じられる、興味深い集落でした。
昭和20年代の平出遺跡発掘調査では、遺跡とともに現在の集落の学術的価値が評価され、平成24、25年度の平出伝統的建造物群保存対策調査では、建造物だけでなく自然景観、民俗風土など歴史的景観が形成されていることが明らかにされました。
広大な敷地の遺跡郡の復元住居と集落の特徴的な本棟造りの屋敷が、奇妙にマッチしてこの村での5000年の間、脈々とつながってきた人々の営みの力強さを感じたのがまず最初の印象でした。
周囲に残る山や川などの自然環境の中で、子供のころ仲間と駆け回ったという「ヤマ」大洞山や「カワ」渋川などの、豊かな自然が原風景となっているという川上氏の解説が、平出への郷土愛の深さを強く感じられました。
集落から一段高い林の中には青く澄んだ「平出の泉」、縄文のころからこの地の命の源となり、村に潤いを与え そこから流れ出る「カワ」は村の家々の間を流れ、石灰石が積まれた川べりの所々には「どんど」と呼ばれる水場があり、野菜を洗ったり スイカを冷やしたりと、「カワ」が生活や屋敷の一部であったことがわかり、ご近所さんとのコミュニケーションの場にもなっていたのだろうとも思われました。
本棟造りは正方形の間取り、緩勾配の屋根、妻入りの玄関などが大きな特徴とされ、玄関の横には式台が設けられ客人の入り口として使われていました。また「おえ」と呼ばれる囲炉裏のある部屋が家の中心に位置し、煙抜きの吹き抜けがあります。四方を座敷など部屋に囲まれているため、窓はなく暗い空間ではありましたが、囲炉裏を囲んだ家族の居間となっていました。
今回、川上さんのご自宅も見学させていただくことができました。「正中屋」という屋号で酒やたばこの商店を営んでおられたということで、入口の広い土間が印象的でした。そして一番感動したのは、息子さんご家族がこの地に戻ってきて、一緒に同居しているということです。脈々とつながる平出の歴史と生活、そしてふるさとの素晴らしい景観を守る次世代がしっかりと根付いているということに、なんだかうらやましく感じるまちなみウォッチングでした。
なかなか重伝建にすることは難しいけれども、未来のために本棟造りやふるさとの景観を残したいという熱意が強く感じられ、「自分たちのことは自分たちで守っていく」といった川上さんの言葉が印象的でした。