夏のセミナーの報告

公益社団法人 日本建築家協会 関東甲信越支部 長野地域会

夏のセミナーの報告

JIA長野県クラブ 正会員建築家 下﨑明久さん(下﨑建築設計事務所)から、夏のセミナーの報告です。(2020年7月31日)

JIA長野県クラブからは正会員建築家16名、協力会員4名、一般1名、事務局1名の合計22名が参加しました。

 

去る7月31日(金)、夏のセミナー「上塩尻まちなみウオッチング」に参加しました。新型コロナ禍という未曽有の事態のなか、会員が顔を合わせて行うイベントとしては今年度では初めてのことでした。

 

会員の他、講師の長野大学 前川道博先生、藤本蚕業歴史館 佐藤様と上塩尻地区の方々、長野大学学生らを含め総勢30名程が参加しました。夏の午後、全員がマスク姿で練り歩くという少し前には想像もできない光景ではありましたが、皆さん元気で大変活況のあるまちなみウオッチングとなりました。

 

まず初めにコーディネート役の清水副代表の説明、新井代表、荒井前代表の挨拶があり、続いて藤本蚕業歴史館にて蚕種産業と上塩尻地区形成の基本的なレクチャーをしていただきました。

 

藤本蚕業歴史館にて上塩尻地区のジオラマ模型を囲んで

 

蛾輪(ガリン)と蚕種紙(サンシュシ)の説明をする前川長野大学教授

 

私は「蚕種業」というものがどんなものか今回初めて知った不勉強者であり、「目から鱗」が何枚も音を立てて剥がれ落ちました。「養蚕業」「製糸業」が日本の近代産業を支えていたことは認識していましたが、その源となる「蚕種業」という蚕の卵を育てる産業があり、しかも全国一の生産地がこの上田・塩尻地区にあったなどということは露も知らずにいました。

 

この後「蚕種製造民家群」を巡るわけですが、その質的・量的な建築群を目の当たりにして「衝撃」を受けることとなりました。ハッキリ言ってJIAのまちなみウオッチングで(個人的には)一番興味深かったです。今回参加できなかった皆さま、是非一度訪れてみてください。

 

■佐藤修一氏邸・藤本の蚕室・佐藤本家跡

 コロナ感染防止に留意して密を避けるため、2グループに分かれてのウオッチングとなり、私たちはまず初めに藤本蚕業歴史観の佐藤さんの案内にて佐藤修一氏邸→藤本の蚕室→佐藤家本家跡の順に見学しました。

 

佐藤修一氏邸は主屋の周りに蚕室が3棟配置されており、1896年(明治29年)に描かれた絵図とほぼ一致した形を遺していました。それぞれにリズムよく換気窓が設けられた越屋根をもつ蚕室は重厚な土蔵造りであり、蚕種用の蚕を育てるために特別大切に扱っていたことが良くわかります。特に藤本の蚕室には床下に「埋薪」という蚕にとって大敵であった寒さ防止のための仕掛けが施されていました。韓国のオンドルに似た仕掛けです。

 

佐藤本家跡は重厚な藥医門が残されているものの、居宅など主建築は数年前に取り壊されて空き地となっていましたが、その敷地の広さが大変なお大尽であったことを物語っていました。上塩尻の蚕種民家には他にも解体が決まっている家屋もあり、今後の行く末が心配されます。遺すのは大変なことですが壊してしまえばもう終わりです。何とか土地の文化を後世に繋げたいものです…。

 

佐藤修一氏邸・蚕室①(左)と藤本の蚕室(右)

 

佐藤修一氏邸・木戸門

 

佐藤修一氏邸・主家

 

天井まで漆喰塗りの消毒用蚕室と案内頂いた佐藤さん

 

河原石を割って積んだ石積みが面白い。奥に屋敷神が祀られている

 

藤本の蚕室外観 大小の開口バランスがとても美しい

 

藤本の蚕室 「埋薪」と言われる床下暖房装置

 

佐藤本家跡地

 

佐藤本家跡地(ひ、広い!)

 

■馬場小路と岩井小路

 上塩尻には北国街道から町中へ入り込む小路が7つあり、馬場小路と岩井小路が往時の面影を残しているということで見て回りました。

 

馬場小路は土蔵造りの蔵や蚕室が連続し、その間を居宅への門が繋ぐという構成でできています。岩井小路は資料では馬場桂三氏宅脇小路となっていましたが、佐藤さんによると元々岩井さんが長く所有していたお宅とのことで、「岩井小路」と呼んでいたとのことでした。

強い西風が吹き付ける壁面を全面下見板で覆った壁が印象的です。どちらも小路の狭さが心地良いヒューマンスケールを生み出していました。

 

馬場小路1

 

馬場小路2

 

岩井小路(馬場桂三氏宅脇小路)

 

■清水卓爾氏邸

 清水卓爾氏邸は所有者の清水さんが案内してくださいました。越屋根を持つ蚕種製造民家を改修して現在も居宅とされていて、付属の蚕室と土蔵も健在です。

 

蚕室越屋根が連続しておらず、2つの越屋根がリズムよく並んでいるのが特徴的です。土蔵の地下には湧水が引いてあり、蚕種を低温保存していたとのことです(確かそのような説明だったと思います…)。地の利を効果的に取り込んだ技術は、現代の我々も大いに学ばなければと思いました。

 

清水卓爾氏邸 蚕室

 

清水卓爾氏邸土蔵  地下に湧水が引かれ蚕種貯蔵室がある

 

清水卓爾氏邸土蔵 様々な基礎石積みが見事

 

■北国街道・小岩井紬工房

 上塩尻地区を東西に貫く北国街道を歩きました。

連続した越屋根を載せた蚕種製造民家を改修した立派な居宅が点在し、塀や門もしっかりと手入れされていて風情ある景観をつくっています。その中で上田紬を手織りで製作している小岩井紬工房もチラリと拝見。時間がなくって上田紬をじっくり見るのはまた次の機会となりました。

 

北国街道沿いの居宅

 

北国街道沿いの居宅(佐藤勇二氏邸)

 

北国街道沿いの小岩井紬工房

 

北国街道の脇小路(土塀の屋根は瓦直葺き・下部の石積みが素晴らしい)

 

■公民館でのまとめ

 一通りまち歩きを終え、塩尻地区公民館にてウオッチングの纏め会となりました。

初めてこの地を訪れた私としては、まだ知らない素晴らしい景観がこんなに近くにあることに衝撃を受けたことを述べさせていただきました。そしてどんな手法であれ、素直にこの景観を残したいと思いました。地元の清水さんや長島さんは既に色々と動いているのでしょうか。

 

例年ならばこの後の宴会で、ざっくばらんな意見交換もできたのでしょうが、今年は仕方ありません。またの機会を楽しみにしています。

最後にコーディネートして頂いた清水さん、ありがとうございました。

 

 

 

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