建築家の社会的役割
2006年08月17日
「建築家の社会的役割」(2006.08.17) 池森 梢(萌建築設計工房)
2004年11月に「被災地住宅相談キャラバン隊」(国土交通省からの要請)として、新潟県小千谷市にいきました。地震後2週間が経っているということもあり、意外と住民の方たちは落ち着いているように思えました。避難所にも物資は十分あるように見え、自衛隊やボランティアの炊き出しや、長野からも絵本のバスが来たり、散髪をしていたり、お風呂も男女別で毎日入れるようになっていました。ただ、生活をする場所は相変わらず、プライバシーのない体育館の中で、かなりのストレスが被災された方に覆いかぶさっていると感じます。小千谷市役所と総合体育館(避難されている方が体育館で生活しています。)で現地相談いたしました。
初めの被災者の方の印象は、皆さん気丈で、失礼な表現ですが意外と明るく感じました。私にいったい何ができるのか。長野を出るときそう思いながら新潟に向かいました。実際、相談を受け、被害にあった方とお話をして、知りました。気丈に振舞っていても、どこか曇った表情で相談に皆さんこられます。建物を見て、意見を交わし、相談を受けていくうちに、相談者の方の表情に変化が起こります。皆さんの表情に光が現れます。私の役割を知ることができました。少しでも、明日への一歩へのきっかけになりたいと願いました。
日頃、業務の中では、より高い空間をつくるために、自分自身の中に熱をもって、一歩一歩進んでいこうと思っています。ある意味、孤独な感じさえ受けます。まして、社会の中での役割など、あまり感じることはありません。「被災地住宅相談キャラバン隊」に参加して、このときほど、建築士=専門家であるということを強く感じたことがありません。専門家だからこそ、被災者の方が相談に訪れ、私の発する言葉を真剣に聞き入ります。建築のことが解らない方にとって、些細なことも不安になります。私たちの目で判断して、お話しすることで、被災者の方は気持ちが楽になります。これが大切なことです。建築士=専門家であることに、誇りを感じました。建築士の社会的役割は多様な面にあるとおもいます。私たちは社会に生かされているのですから、業務とは別に、担うべき役割を感じ取り、社会に返すべきだと思っています。
「被災地住宅相談キャラバン隊」に参加して見えた問題点。
① 応急危険度判定は全部の地区に行なわれていない。ほとんどの人が、住人が何もしなくても、待っていると相談員が来てくれ、建物の診断をしてくれていると思っている。今回の相談は、窓口に相談に来た人のみの調査となっているので、この相談の事知らない人は、建物を見にきてくれると思い、かなりの人が相談員をもしくは応急度危険判定士を待っていると思われる。
② 応急危険度判定は必ずしも正確ではない。(応急危険度判定もとても重要な活動です。応急危険度判定を住人が正確に認識していない。応急危険度判定は、外観のみの目視判断ので、住人の方と話もしておらず、危険と判断されていても、内部に入り調査すると危険でない場合がある。あくまでも、危険度判定は震災直後の二次災害を防ぐためのものであり、建物を詳しく調べたものではない。しかし、住人の方は、危険と赤紙を張られてしまうと、危険で取り壊すしかないと思ってしまう人が多いと考える。応急危険度判定は建物のすべての判断と思ってしまっている人が多いと感じる。応急危険度判定が間違っていた場合、震災で痛んだ心もさらに傷つけることになる場合がある。赤紙を貼ったところは、優先的にこちらから出向き、建物の相談を受けるべきと思う。
③ 壊れたり傾いたりしている建物の共通点。
・湿気がある。敷地の周りはほとんどと言っていいほど、苔が生えていて、水位が高いと感じる。 ・地盤が緩い。地盤がやわらかいために、地盤に沈下したり、滑ったりしたために建物が壊れている。 ・基礎が弱い。無筋・束・アンカーボルト未設置により基礎が破壊している。 ・瓦屋根。同じ地区でも瓦屋根の被害が大きく、鉄板屋根は被害が小さい。 ・浴室の破壊。CB+タイルの浴室は、クラックが入りタイルが割れている。しかし、主要構造的には問題が無い場合が多い。
④ 被害の少ない建物の共通点。
・1階コンクリート造 2・3階木造というものが多く、基礎がかなりしっかりしている。 ・多雪地帯ということもあり、雪の重みに耐えられるよう、構造がしっかりしている。 ・法規改正後(昭和56年以降)の基準で建てられているもの。 ・地盤がしっかりしている。
⑤ 考察
本来であれば、相談のあった人だけで無く、地区ごとに担当を決め、全世帯の建物を見ることが良いと考える。さらに、応急危険度判定が行なわれた地区であれば、赤紙(危険と)判断された建物から、相談すべき。応急危険度判定の意味をもっと知らせる必要がある