JIA長野県クラブ「代表日誌」2017年12月
2018年01月09日
JIA長野県クラブ 山口代表より「代表日誌」2017年12月が届きました。(2017年12月31日)
12月3日
冬のセミナー
今年は茅野の藤森照信先生のご自宅と近くにある作品群の見学会である。藤森作品を表す言葉として、隈研吾氏の “見たこともないのに懐かしい” が有名だが、藤森ワールドを纏めて見学することで改めてその魅力に迫りたいと思い参加した。
先生の建築はそのお話同様、饒舌で多面的である。1つの言葉で言い表すのは難しいが、あえて言えば “「物語性」がある” ということだろうか。 磯崎新は「つくりもの」と表したそうだが、同じような意味だと思います。
おとぎばなしや絵本の中の建物のイメージであったり、宮崎駿の世界に通じるイメージからはテーマパーク的とも言えるかもしれないが、作品群全体を俯瞰すると「縄文」の印象が濃い。
屋根にタンポポやニラを植えたり、棟に松を植えるのを見て私は冗談かと思ったが、ご本人はいたって大まじめである。歴史の先生なので根拠をしっかり押さえていらっしゃる。
そうかと思えば、室内のスケール感は数寄屋的だし、素材は日本の伝統的なものが多く、民家などで培われてきた職人技を活かした独自の表現からは、日本的なものを意識されているのは明らかだろう。
日本建築は木造で、伊勢を持ち出すまでもなく「仮設性」が強い。火事も多いし、元々半永久的に持たせるという発想は希薄なのかもしれない。以前見た「高過庵」の木の根元は腐りかけていたし、「神長館」の屋根に突き出た枝付きの柱はいずれ腐るだろうと推測されたが、先生はそんなことはお構いなしなのかな?と思っていた。「神長館」はどのように対応されているか不明だが、「高過庵」の根元は継木がなされ板金で巻いて補強対策が施されていた。これだけ見学客が多いのだから、先生もさすがにヤバイと思われたのかもしれない。
そして「つくりもの」についてだが、先生の作品は建築の模型のような感じで、その形態と共に一見スケールがリアルさに欠けるような気がしませんか? しかしそれも考えてみれば日本の小住宅は昔「うさぎ小屋」と欧米からは揶揄されたが、 “KAWAII” の世界標準語化のように極めて日本的な建築的特徴なのかもしれない、などと勝手な妄想が頭の中をぐるぐると廻り始め、混乱で整理がつかない状態に陥ってしまった。これも藤森ワールドの迷宮に嵌ったが故の症状なのかもしれない。
今回初めて見学できた「低過庵」と「空飛ぶ泥舟」はともに茶室ということもあるが、今までとりとめもなく書き連ねて来た先生の建築に対する印象を更に強く感じさせる出来映えで、ご自宅から「高過庵」までの建築群はさながら “藤森ワールドのテーマパーク” の様相であった。
今回の見学会にご尽力いただいた吉川さん、川上さん、地元の関係者のみなさん、そして何よりご許可いただいた藤森先生にこの場を借りて感謝申し上げます。
見学会の最後に、今年8月にご逝去された柳澤孝彦先生の「金子茶房」で、きれいに晴れた八ヶ岳の夕景を眺めながらコーヒーをいただいた。上社表参道大鳥居からは、両妻面の全面カーテンウォール越しに八ヶ岳連峰が額に切り取られた絵画のように見通すことができる。ちょうど夕日が八ヶ岳に当たる時間帯に遭遇し、先生はこの雄大な景色を意識されて設計されたに違いないと思わせるほど見事な建築と風景の一体感であった。
その後、諏訪湖ホテルに移動して恒例の忘年会〜二次会と大変な盛り上がりを見せた。二次会では出版やJIAのあり方について、果ては建築論にまで話が及び、私は疲れて11時半頃すごすごと退席したが、その後も延々と盛り上がったとのことでした。
12月5日
第4回選定議員会
川上さんの事務所で選定議員会が開催された。当会の今後考えられる問題点の意見交換と、荒井さんから副代表と監査役の人事案が発表された。私の2期目は副代表2人体制で運営してきたが、荒井さんの意向で4人に戻すことになった。候補者の方々も承諾され、これで執行部の顔ぶれは揃うことになった。委員会構成と委員長人事に関しては、私の2期目と違い荒井さんにじっくり構想を練っていただくことで了承を得た。この人事は来月開催される幹事会で報告されることになる。
12月15日
写真講座:「建築写真への誘い 〜光による空間表現〜」
広報委員会主催で建築写真家の小川重雄氏をお招きして建築写真勉強会が開催された。
小川先生はわが国を代表する建築写真の第一人者で、新建築社時代の縁から かわかみ設計の山田さんの計らいで実現した企画である。
出版業界の不況が叫ばれて久しいが、非常に規模の小さな建築写真の世界で、新たに作品集を出版することの困難さは想像以上のものがあると思われます。私も訪れたことがある岡山の閑谷学校の写真集「国宝・閑谷学校」をこの夏に出版されたばかりの小川先生をお迎えして貴重なお話を伺った。
学生時代は当初山岳写真家を目指していたが、課題で提出した村野藤吾の「日本興業銀行本店」の写真が渡辺教授に認められ建築写真への道を勧められた経緯から始まって、新建築社の写真部時代では「Peter Zumthor 作品集」の撮影時のエピソードを興味深くお聞きした。
具体的な建築写真のお話は広範に渡ったが、個人的に興味深くお聞きしたのは、
・横からの光線の使い方
・近景、中景、遠景の構図
・雨の日の撮影、ファンズワース邸撮影時のエピソード
・曇りの日の柔らかい日差し、西日の残質感(槙文彦の渋谷の教会について)
・ディテールの撮影も空間性を意識する
・構図は最適なものでなければならない(デジタル時代であっても拡大も切取りも不可)
などであったが、途中から技術的な解説についていけなくなったのは我ながら情けなかった。
講演の後、広報委員会から来年発刊予定の「信州の建築家とつくる家 14」の説明があった。特集は「素材から空間へ(仮)」だそうです。出版は非常に難しい事業で、恐らく全員が満足する雑誌作りは不可能であると個人的には思っています。それでも一人でも多くの会員の意見を取り入れようと努力されている吉田委員長他委員会の皆さんの取り組みには頭が下がります。
引き続き懇親会が行われたが、小川先生もご参加いただき、さながら講演会の続きのような様相を呈した。
まずズントー特集など先生の作品集へのサイン攻めから始まり、具体的なテクニックに関する質問から、丸山さんが提供した現場の工程写真を使ってフォトショップでの写真加工の実演、そして「信州の建築家とつくる家 13」に掲載された写真を1つ1つ先生が評価されるという、信じがたいようなことが次々と起こった。
参加者の顔を見ていると本当に楽しそうで、年末の貴重な時間を割いていただいた上に、ここまでフランクに接していただいた小川先生に改めて感謝申し上げます。また今日の講演会の実現にご尽力いただいた山田さんにもこの場を借りて御礼申し上げます。
12月20日
2018年度予算検討
来年度の予算案を事務局で荒井さんと相談しながらまとめた。昨年度の事業費は800万円超で、今年度は約700万円である。ここ数年は650〜700万円であったが、来年度は600万円規模を予想している。
大きな要因としては、来年はセミナーの予定がないことと外部からの収入がないことがあげられる。2019年度からは支部からの活動助成金が減る可能性があり、またいずれ当会においても会員減少は避けられないと考えられるので、会員増強に努める一方で支出の削減に着手せざるを得ない状況である。