無名の名作

公益社団法人 日本建築家協会 関東甲信越支部 長野地域会

無名の名作

「無名の名作」(2006.08.01) 藤松幹雄(藤松建築設計室)

 

5月の連休に私用で上京したとき、きっと空いているだろうと、日本民藝館を訪ねた。会館70周年にあたる今年、西館 柳宗悦自邸の修復工事を終え、GW中試験的に一般公開という特典付であった。

 

玄関棟は栃木県で19世紀に建てられた豪農の長屋門を移築し、柳邸の応接室として使用していた。黒漆喰のナマコ壁だが張られているのは平瓦でなく大谷石、屋根も大谷石で葺かれている。瓦風に加工されたものではなく、野州の石屋根と言い、材料から生まれた形である。それだけに必然さがあり、石の持身がよく生かされていると言う。私は勝手に日本の伝統的な民家で、土着的な雰囲気と思っていたが、異国の雰囲気をも醸し出しており、民藝の目指したコンセプトがうかがえた。

 

本館の展示品は15世紀から18世紀のものが多く、手作りの捨てられかけた日用品を買い集めたものと言う。作り手に作品と言う意識は無かったと思うが、飾り気のない素朴な美しさがあり、心引かれる名作ばりであった。暮らしの中で使われてきた道具には、歴史と経験から絞り出されたいやみの無い形があった。

 

現代の大量生産のものにはこのエネルギーはなく、人の感性や価値観は多くの情報によって迷わされているのかもしれない。永い時間を掛け人間の知恵が作り出した道具には、頑固なこだわりがにじみ出ており、ものづくりの姿勢は、人々の暮らしをそっと支えてきた手づくりの民具に込められていた。無名の巨匠達は奥が深い!建築もこうありたいと思う。

 

 

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