この年になって…

公益社団法人 日本建築家協会 関東甲信越支部 長野地域会

この年になって…

「この年になって…」(2006.09.01) 川上恵一(かわかみ建築設計室)2006

 

ちょっとしたきっかけで建築設計の仕事をして26年。進路を決めてから36年にもなる。ここまできたかという思いと、これだけかという思いが交錯する。辞めようと思ったこともしばしば。しかしこの道で行くしかないと思い直し今日に至っている。夢中でもあり、ずるずると来てしまった気もする。最近は人生について考えることが多い。54歳とは天命を知っているはずだか、反省しきりである。

 

司馬遼太郎の講演集を読んだ。英国ロンドン大学の記念講演での『義務について』が興味深い。氏の世界歴史の博学もさることながら、様々な例をとり、英国と日本の歴史を比較評価された。日本も勝るとも劣らない独自の輝かしい歴史を刻んできたことを話された。そして“『義務』とは豊かに他者の為の、あるいは公の利益の為の自己犠牲を湛えて存在している精神像で、資本主義を維持する倫理像のように思う。

 

英国は既に持っている。しかし、私ども日本社会は武士道を土台にしてその義務を育てたつもりでいました。しかし、近代史は必ずしもその方に行っていない…。今こそ世界に対する日本人の姿勢を新しやり方の基本とすべきではないか。”といっている。ともすると、猿真似と揶揄されて久しい日本は、洋才を持った紳士ほど真の憂国家が多い、とも。

 

建築でも同じ事に思い当たる。世界に誇れる独自の文化史を持つ日本にあって、例え欧米を範にしたとしても真の日本の住まいや建築を目指さなくてどうして世界に認められようか。我々はあまりに長い間自国を顧みなさ過ぎた。そういえばオシム監督も「西洋の手法はマスターしたが、日本のサッカーとはどうあるべきか?」と選手に問いかけているのは皮肉なことだ。

 

 

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