JIAとしてのモラルとは?

公益社団法人 日本建築家協会 関東甲信越支部 長野地域会

JIAとしてのモラルとは?

「JIAとしてのモラルとは?」(2006.09.15) 倉橋英太郎(倉橋英太郎建築設計事務所)

 

私は10年ほど前、JIA関東甲信越支部保存問題委員として保存についての勉強、活動に 携わらせていただいた。その中で代表的なものに鎌倉市立美術館保存運動がある。

 

今回、松本大名町(松本城三の丸管内)に昭和12年に建立された(渡辺仁 弟子の設計?) 第一勧業銀行松本支店が栄華を誇った歴史に幕を閉じ、昨年10月には売却先としてマンション 15階建案を擁するハウスメーカーが候補に上がった。他に候補は無く、まさに契約寸前であった。

 

遡れば、平成16年夏、みずほ銀行松本支店長をお訪ねしお話を伺ったところ、売却金額は 3億円程度、今の段階では図面等の資料は閲覧できない。また、この時点では売却先は決まって おらず、地元の皆様の意向を聞いてとの事であった。冷たい対応であったように記憶している。その中で更に1年が経過し、平成17年10月にマンション案が現実になるものとして動いていた。

 

松本デザイン会議で、元県議会議員の深澤賢一郎氏とお話する機会があった。松本第一勧銀を 守る市民の会で募金を呼びかけたところ、500万位集まった。多くの企業や篤志家にもあたったが 反応が無いとの事だった。私にも、何とか妙案はないか、またよい企業を紹介してくれないか とおっしゃられた。

 

いずれにしても時間が無い! この1,2ヶ月でマンション案に対抗できる案を「景観法」が設定される時であった。 美しいランドマークとして、50年以上経った建物は、登録文化財等に指定して残していく べきあるとの主旨である。私は強く思った。市民に親しまれ、思いが詰まった 「旧市街地のランドマークであるこの建物を絶対に残す!」 松本大名町のふさわしい威厳のある建物、松本城、開智学校に次ぐ松本のランドマークに なりえるのではないか。子々孫々まで残すべきものだ!

 

松本では埒があかない。「あの建物をホテルのロビーかレストランにして、裏の空地に 客室を建てれば、経営的にも成り立つ」と直感して、ラフなスケッチを携えて早々 ファンド会社レイコフの山本社長に相談に伺った。1ヵ月後、山本社長と担当者が来松し、 現場にて前向きに検討したい旨のお返事をいただいた。その後、私の案を市民の守る会と大名町会に提出し、審議の結果、大名町会は賛成、市民の会は残すという点で賛成だが、ホテルには難色を示した。

 

平成17年暮、東京みずほ銀行との話では、既にマンション案が進んでおり、だめかもしれない という雰囲気であった。大名町会長大宮さんと冷たい雨に打たれ、セツナイ思いを抱きながら、 帰路についた。しかし、まだ決定した訳ではない!平成17年12月25日、大名町会推薦、レイコフ・倉橋連名でみずほ銀行本店にホテル案を提出した。

 

明けて平成18年1月、今度は松本歯科大がセミナーホールとして活用する案を発表した。 市民の会は大賛成だったが、結局この案は消滅した。4月になり、みずほ銀行よりホテル案を押すと言うお話をいただき、実施案作成に入った。しかし、またまた大きな波が押し寄せた。地元出身の篤志家が、コンサートホールを兼ねたレストラン案を打ち出した。そして、市民の会は大賛成した。

 

市民の松本文化を考える会では、共にマンション案を退け、ここまでみずほ銀行に熟慮の期間を 作った私共に敬意を表してくださり、市民集会を開催して発言の機会を与えてくださった。

 

第1回:今までの経過をお話し、残す思いは同じであり、その手段としてのホテル案 であることを説明した。

第2回:レイコフ担当者も出席。古城会、鉄砲隊、その他団体も「保存と活用 をしてはじめて建物が生きてくる。しかしホテルは反対」

第3回:ホテル案に反対する皆様が出席者の大半を占める中、私は松本城を世界遺産に登録されるよう願う1人として、中心ビジネス街の 三の丸内に多くある9階~7階建てのビル街に溶け込むように階数は8階建て、立地上レストランだけでは経営が成り立たない、ホテル施設こそ この建物を残すために現在最良の方法である事を訴えた。

出席者からは、次元が低い、回答になっていない、儲け主義か等のご意見を頂戴した。

 

又、柳沢孝彦先生は新聞記事の中で『1つは「事業経済のために保存を糧としようと考える もの」、2つには「保存のために経済を手段と考えて、そこに文化を立ち上げようとする コンセプトと」』とおっしゃっている。私は保存の為に経済を手段にしたつもりである。しかし、建築家(JIA)のモラルとして逆に言いすぎであるが、事業経済のために保存を糧としてはいけないもの? 時の設計者が繊細なデザインを隅々まで巡らせてきた、清楚で美しい第一勧銀建築が残るならば、手段を選ばずもあり得るであろうか・・・?

 

平成18年9月12日にホテル案ということで、みずほ銀行はレイコフと契約した。さて、如何様にホテルを設計するか?大宿題である。命を掛けて・・・そして、JIAのモラルに恥じず・・・。頑張りたい。

 

 

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