夏のセミナーの報告 ⑤(重伝建と真壁伝承館)
2019年08月23日
JIA長野県クラブ 正会員建築家 川上恵一さん(かわかみ建築設計室)から『 夏のセミナーの報告 ⑤ 』です。
【真壁町 重要伝統的建造物群保存地区】 7月20日(土)
【真壁伝承館】設計者:設計組織ADH
今年の夏のセミナーでの研修旅行は暑かったが楽しかった。が不幸にもレポート提出がクジ引きで真壁見学が当たってしまた。
重要伝統的建築物保存地区の真壁である。
ここがまだ地区指定になってない10年程前、JlA支部の保存問題委員長の時、理論合宿で見て回った。当時は廃墟の様な店蔵群が続いていて痛々しかったが、国の東日本大震災の復興災害支援もあって街並みは整備が進んでいた。主に漆喰壁や瓦屋根、板壁や門などが修復されていて景観上は見違える様に美しい。
真壁は江戸初期から城下町として整備され、町人街は木綿業の商いで繁栄した。
そのおかげで建築的ストックが顕著である。ボランティアガイドのおばさんの慣れた説明を聞きながら街中をめぐる。
通りに沿って整備された店蔵や立派な門の屋敷構えが並んでいて往時を偲ばせる。だがこれらを活かした暮らしの匂いがない。歴史ある貴重な建築群ではあるが剥製の様でもあった。
街の中央部の陣屋跡に新たに真壁伝承館が建った。集会所、資料館、図書館、公園などのゾーンを歴史と伝統を加味し、ヒューマンスケールで繋いだ複合施設である。土蔵、武家屋敷、家並みのイメージを継承しながらのオシャレで魅力的な空間である。
コンペで選ばれ、市民の意見を聞き、デザインを絞り出した様な建物は日本建築学会賞、グッドデザイン賞など多くの賞に輝いた話題のゾーンある。そこには賑わいがあった。ただ集会施設にある和室の床の間の床柱がステンレス製で見慣れないせいか違和感があった。
真壁を訪ねて感じたことは、古さと新しさの融合を図ることの難しさと、建築の力である。歴史は財産であることに間違いはないが、それにばかり頼っていたのでは衰退するだけで忘れ去られてしまう。その上で何か新しいことを見つけ繋げなければいけない。保存と創造の追求である。
建築を通して社会に貢献するしかない者として先に進むしかないかと思いながらバスに乗り込んだ。