JIA長野県クラブ「代表日誌」2018年3月

公益社団法人 日本建築家協会 関東甲信越支部 長野地域会

JIA長野県クラブ「代表日誌」2018年3月

JIA長野県クラブ 山口代表より「代表日誌」3月が届きました。(2018年3月31日)

 

3月3日

信濃毎日新聞松本本社見学会

11月25日の構造見学会、2月17日の見学に続いて個人的には3回目の見学です。

建築祭でお招きした中山英之さんが伊東豊雄事務所のOBという関係で、信毎の担当者の磯田和明さんが文化講演会にいらっしゃった際に紹介していただき、17日の講演後、懇親会の間の時間を利用して中山さんと我々数人で見学させていただいた。

 

工期が非常に厳しいのは私も承知していて、恐縮しながらの見学だった。この時点で引渡しまで残すところ1ヶ月少々ということだったが、私と藤沼支部長の見立ては普通ならあと2ヶ月は最低必要というものだった。

伊東事務所の磯田さんと井上さんには懇親会、二次会、学生卒業設計コンクールにもお越しいただき、磯田さんが私の大学の後輩ということも判明した気安さからこの日のJIAの見学会を申し込み、ご了解いただき実現した見学会です。

 

敷地のロケーションと面積に非常に恵まれていること、地下水位が高いのと敷地の端を小さな河川(蛇川)が通っている条件をどう解決し、周囲との関連性をどう繋げるかが設計上の留意点であり、発注者の理解もあり伊東事務所としても破格の条件の案件であった説明がされた。

河川の処理に関しては、敷地内に子供達が遊べるような親水区域を設置したことと、蛇川の水温が年間を通じて16〜7度であることを利用して、松本市の許可を得て各階の床暖房に使用している。

 

地下水位の高さから基本的には地階は造りたくなかったが、発注者の意向で駐車スペースの確保の為に必要になったということと、地上部分の荷重が非常に大きい(11月25日の日誌参照)ので免震を柱頭に設けたことの説明があった。その為に地階にE.X.J.を随所に設けなければならず、特に設備配管は大変だったようである。

 

地上部は2階までの基壇部と前面からセットバックした5階までの構成である。基壇部に設けられたガラリ状のGRCの角度は、直射日光を避けるのと外部と内部からの視線の最適解を求めて、慎重な検討が重ねられて決定したそうである。 そのセットアップした上部(3階)はテラスになっていて一般市民も利用できるが、北アルプスが一望できる素晴らしい眺望である。

 

1階から3階は複合用途で市民に開放されていて、4、5階が新聞社のオフィスである。基壇からセットバックした3〜5階の外壁はガラスのカーテンウォールで、マリオンは杉の集成材である。岐阜のメディアコスモスの内外を反転して、通常内部に使われるマリオンを外部に使うことで深い陰影が生まれ、絶妙な縦と横の割付が和の雰囲気を醸し出しているようにも感じられ、川上さんは民家を意識したと仰っていた。メディアコスモスと今回のカーテンウォールの施工はニューストが行っていることも付け加えておきたい。また外部に木が使えたのは、敷地に余裕があったので延焼ラインからすべて外れているからだそうである。

 

伊東豊雄氏はせんだいメディアテーク以降、わが国の建築家としてトップランナーではないかと常々考えていたが、今日の磯部さんの説明を聞いていて再度確信した次第です。稀代の建築家がこの長野県から生まれたことに誇りを感じた瞬間でもありました。

 

3月9日

「くまのもの-隈研吾とささやく物質、かたる物質」

地域サミット出席を利用して、5月6日まで東京ステーションギャラリーで開催されている 隈研吾氏の展覧会を会議の前に覗いてきた。会場は最近の東京での建築展に見られる傾向である 建築の専門外と思える人たちでごった返していた。

 

私ごときが隈研吾の論評をすることはできないが、建築雑誌を通してではあるが、同世代として長い間彼の文章や作品を見てきた者として少しだけ感想を述べたい。

 

「森舞台」で日本建築学会賞を受賞した後なので恐らく二十年くらい前のことだが、確か「GA」だったような気がするが、“建築家の身の立て方は分かったので、これからはそれで勝負する” というニュアンスのことを書いていて非常に印象に残っている。

当然その時は私には何を言っているのか見当もつかなかったが、その後の活動を見てある時、それは “素材” を徹底的に追求し表現するということなのだな、と思った。

 

いまでは “和の巨匠” などと称されるが、形態としてのそれではなく “素材” の表現、特に竹や木、紙など わが国古来からの材料を多用し表現することで、必然的にそういう評価になるのだろうと私は感じていた。

 

安藤忠雄がかつてフランスを中心としてヨーロッパで評価が高まった理由が、“和” を感じさせる ということだったと記憶している。それは桂離宮に代表される日本建築の持っている1つの側面である “無駄を徹底的に削ぎ落とした研ぎすまされた簡素の美” -当然それは近代建築の目指したものでもあった、を見いだしたからであろう。

 

建築に限らず様々な分野で国際的に評価を得る1つの方法は、自身の出自を表現し 昇華し普遍的な価値を作り出すという手法で、安藤的なアプローチとは全く異なる表現で隈は打って出たと私は理解している。

そしてその “素材” の使い方は、私にはほとんど表層的なイメージしかない。石と細い角材は構造材として使用する例もあるが、壁であれ天井であれ仕上材としての表層のデザインで空間を表現するようなイメージである。それは3歳年下の坂 茂とも違っていて、私は隈の同世代として我々の学生時代の建築思潮の影響(磯崎新と彼の師匠である原広司)を垣間みる思いである。

 

それは隈の初期の代表作である「ドーリック」や「M2」を見ても明らかな “ポストモダン” 的な資質にあるように私は感じる。

安藤の “和” は意図したものではなく無意識から出たものだが、隈の “和” は当初からの戦略だったのではないか、などという勝手な思いが 昨年の安藤忠雄展とも比較しながら 頭の中を駆け巡っている状態でこの建築展を見ていたのである。

なお会場で販売されていた図版集は、JA最新号として同じ内容と金額で販売中である。

 

関東甲信越支部 第3回地域サミット

今年度最後の地域サミットに参加した。今日の意見交換事項は地域会の現状・将来像と支部活性化(会員拡大)他3項目である。

 

まず神奈川地域会の取組である。我々とほぼ同時期に開催されている「かながわ建築祭」は3日間の日程で行われているが、まず後援に神奈川県、横浜市建築局、テレビ局、新聞社、鉄道会社が名を連ねているのに驚かされる。8つの事業が展開されるが、中でも今年度2回目を迎える「JIA 神奈川デザインアワード」の取組が紹介された。

審査委員長に伊東豊雄氏を迎え、会員の建築作品だけでなく様々な日々の活動全般を評価し表彰する制度で、質の高さもありこのアワードへの参加の為に入会を希望する若手がかなりいるとのことである。

 

もう1つは10月に開催された「建築フォーラム」である。これも3日間に3つのシンポジウムとパネル・模型・サンプル展示が行われた。今年度のテーマは「都市木造が暮らしとまちを変える」で、後援は国交省 関東地方整備局、林野庁 関東森林管理局、神奈川県、日本住宅・木材技術普及センターなどである。

神奈川地域会の豊富な人材と行政との取組の実績から実施できる規模で、長野県クラブではマンパワーからいってもとてもここまではできないと思う。

 

千葉地域会は事務所協会など他会からこれはと思う人をピックアップしてeメールを送ったり、学生卒業設計コンクールに招待するという取組である。

 

司会が私にも振ってきたので、長野地域会は会員獲得を目的とした活動は行っていないが、各地区の会員が地元で声をかけて誘っていること、住宅展のような地域の活動と出版事業などを通じてJIAの認知度を高めていること、建築士会と事務所協会の建築文化賞の多くをJIA会員が受賞していることなどを通じて潜在的な希望の掘り起こしが行われていること、など活動を通じた認知度の向上を計っていることを報告した。

 

地域会の現状と将来像については、本部財務委員会の資料が出され現状認識のための調査を現在行っていて、様々な観点から導き出そうとしている。会員数の減少は止められないという認識の基に、地域会の活動をどう維持していくのか、あるいはどのような活動を目指すべきなのかを会費、支部への活動費の分配も含めて検討することで、将来像を探りたい意向のようである。

 

支部活性化とは会員拡大の方策のことだが、上記のように減少は止められないという認識に立つなら、明らかに矛盾していることになるが、はいそうですか、分かりました と引き下がれる程事は単純ではない。考えうる全ての対策を講じて、若手会員の獲得と高齢会員の引き止めを計る使命が執行部には求められている。具体的には入会を前提とした若手対象のコンペの実施(すでに群馬の支部大会で実績がある)や、学生を含めた準会員と協力会員獲得の施策、支部表彰制度の設置等様々検討されているようである。

これは我がJIA長野県クラブにおいても同様の課題を抱えていて、決して他人事ではない。

 

意見交換事項の最後は支部役員定数変更と役員会・地域サミットのあり方について。

支部改革の一環で、組織改編によって経費削減も狙っているようだが、いつものことながら組織の話になるといつも東京地域会のあり方に終止する展開になって、議論は一歩も前に進まなくなる。そうはいっても2018年度中には目処を付けざるを得ないはずなので、執行部の悩みは深いと推察する(他人事のようですみません)。

 

ここまででほぼ時間を使い果たしてしまい、アルカジア大会、2018全国大会の報告は手短に済まされた。あと国交省が建築諸団体に告示15号のアンケートを実施していて、JIAでも100社程度で応じるとのことである。これは今国会で審議されている「働き方改革」の対応するための実態調査だそうです。

 

その他でHPの更新と活用実態の報告と、来年度の地域会に対する活動費は今年度同額が支給されるという報告があった。

 

私は今回を持ってようやくお役ご免となり、来年度からは荒井洋さんに引き継ぐことになる。

荒井さんよろしくお願いします。

 

第17回全国災害対策会議

定例のWEB会議だが、会場が確保できず30日に延期された。

 

3月14日

第30回(2017年度第6回)関東甲信越支部災害対策委員会

今年度最後の委員会が開催された。

 

JIAのBCP改定と災害対策リーフレットは、本部からの活動助成金の決済にもよるが、9月の全国大会に向けて作成予定である。

BCPに関しては災害対策全国会議が1月の理事会で報告したが、各種提案に対して特に反対意見もなかったが、反応も鈍い状況だったらしい。いきなり言われても十分理解できないだろうが、災害の基金と予算配分にも関わることなので、粘りつよく訴えていくということだろう。

 

災害対策関連のJIA主催のプロポーザルは、全国大会の中の企画で難航している様子。現在 品川区を第一候補として、世田谷区、豊島区、千葉県にも対象を広げて交渉中である。2016年度の支部大会で空き家のプロポが好評だったことがあり、JIAの若手会員獲得の大きな柱なので是非実現してほしいものである。行政に対してJIAに特命で業務を発注してほしいという話なので、難しいのは当然であろう。初めから諦めるべきではないが、長野県は無理でしょうね。

 

災害支援ネットワークは相変わらず進展が見られないので、個人情報の許可を含めて県域の地域会は私が、東京地域会は太田委員が作成することになった。

当委員会は年6回開催されているが、来年のスケジュールを決めた後、東京都の「災害総合支援機構」の総会を郡山副委員長が、アルカジアの災害ワークショップを岡部さんが報告された。

 

当委員会は年度当初委員長不在で、なおかつ委員構成もはっきりしない状態に追い込まれ、とりあえず前委員長から私が委員長代理に指名されるという体制でスタートした。年度初めのこのような事態は支部始まって以来だそうで、7月までに体制を整えることで役員会の承認をいただいてのスタートだった。現在は新たな体制も整い、委員長主導で本部BCPの改定と9月の東京の全国大会の準備に当たっておられるが、WGの意味(災害問題を全23地域会をどのように参加させるか)と役割の明確化、及び首都直下型地震への備えは来年度の課題であろう。

 

3月27日

藤松副代表、荒井次期代表と私とで、今月末をもって退官される長野県建設部 岩田建築監にお別れの挨拶にお伺いした。岩田さんは建築住宅課長の任期が私の代表の期間と同じで、課長2年目からは久々の建築監にも就任された。4年間毎年当会の通常総会にもご出席され、2014年の神城断層地震の折は大変お世話になった。環境セミナーにも興味を示され、後援をしていただいたり、何かと当会の活動にも理解をしていただいた。個人的には当時の佐久地方事務所の建築課にいらっしゃった際に、やはり大変お世話になったことも印象深い。

来年度は建築監は空席だが、建築住宅課長には小林弘幸氏が就任される。

 

3月30日

第17回全国災害対策会議

9日に流れた今年度最後の対策会議が開催された。議題は前回とほぼ同じで、内容も特段進展はなく参加者も少なかったので1点のみ記しておく。

 

「災害対策全国ネットワーク」に関してだが、これも今までに何回か触れているが、どうやら事務局は反対の意向のようである。全国都道府県の支部・地域会の責任者・担当者・連絡先の名前と電話番号(携帯が望ましい)をまとめて本部のHPに公開したいというものだが、初めは個人情報を盾に反対していたが新たに、責任者を一本化しないことによる混乱が生じるのではないかという懸念である。これに関して全国会議では多くの疑問が表明された。

公開できるかはともかく、全国会議と支部委員会で早急に取りまとめて2018年版を作成することになった。

 

一昨年の8月から始めた代表日誌もようやくここまで来た。私の悪いくせで駄文をダラダラと書き連ねて来た。余りに長いので読んでくれる人もいないだろうなぁと思いつつあと1ヶ月を残すのみとなった。少しづつ肩の荷が下りるのを実感しています。ほんの少しですがお付き合いください。

 

 

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